音に聞きつつ…

音楽のことなど。

能登半島地震について

こんな年明けがあっていいのか。

能登半島地震が元日の日本を祝賀ムードから一変させた。

 

少し前に釈迢空折口信夫)の短歌に曲をつけて以降、いつか折口が晩年を過ごした羽咋を訪れたいと思っていたのだが、能登半島がまさかこんな事態に見舞われてしまうとは……。

津波の状況もいまだ詳細不明らしく、ましてや能登は本州の奥地であり、救援に駆けつけるのも大変なことである。道が1つ塞がれば交通は一気に麻痺するような場所で、前代未聞の規模の被害になっている。

 

そんな中でハクジュホール支配人である方のこちらのツイートは本当にありえない。

 

クラシックファンとしてはハクジュホールは好きなホールだったのだが、これは今後通わないことを考えなくてはいけないレベルの問題発言だと思う。そもそもマグニチュードで言えば阪神淡路大震災の7.3を上回っているし、健康サポートの会社の社長が津波の高さのみで比較して災害の規模を独断するなどありえない。

 

日本赤十字社の窓口で寄付をしようと思うが、災害が落ち着けばかならずや羽咋を訪れようと思う。

 

墓所など、折口信夫にゆかりのある場所をこちらで羽咋市が紹介している。

www.city.hakui.lg.jp

 

 

 

 

 

カワカミヒロミの短編

川上弘美の短編をスペイン人の女の子に教えてもらってからずっと好んで読んでいる。

デビュー作の『神様』を含めた短編集はかなり明るいSFのような佳品で、異世界に飛び込むのではなく異界がやってくるというような趣がある。

このように言っていて気づいたが、少しドラえもんに似ている。

収録作の『離さない』は人魚を浴槽で飼う話だが、これが人間の中毒性のようなもののメタファーとして描かれている。自分にとっては『ポニョ』を彷彿とさせるような軽いホラー感のある作品で、見事である。

しかし自分は男女の「ミチユキ」を描いた『溺レる』がずっと気に入っている。表題作も大好きだし、巻頭の『さやさや』も良い。これはすこし文楽みのある夜の道行である。

川上弘美の作風はカギカッコでくくられないセリフ、またカタカナで書かれる人名など、書き言葉としての技法も面白い。スペイン人の女の子に勧められたが、果たしてどう訳してあるのだろうか。

2010年代生まれと話して

先日小学校高学年〜中学生と話す機会があり、その世代と話していて感じたことがある。

「根拠」に基づいた「正論」というものがただ一つあって、それに従わない人は頭が悪い、というひろゆき的論理がかなり浸透しているのではないかということだ。あれはかなり危険な一種の宗教だと思う。

科学というのはまだまだわかっていないこと、解明できていないことがまだまだあり、それを問い続けることに価値があるが、あまりにも科学を信用すると科学的根拠がなければ誤りであるという短絡的思考に陥ってしまう。

学校ではそういった学問の深さを、そして自然、世界の奥深さを伝えて欲しい。

現代の武満徹を殺すな

武満徹が世に出るきっかけになったエピソードとして、ストラヴィンスキーが『弦楽のためのレクイエム』に賛辞を送ったという話が頻繁に引用される。

それまでは1950年に発表した『2つのレント』について音楽評論家の山根銀二に「音楽以前」であると酷評されるなど、国内では全く名を上げられず、1957年に発表した『弦楽のためのレクイエム』についても黙殺されていたらしい。

1959年に来日していたストラヴィンスキーNHKで日本の作曲家を知るために音源を聴いていたところ、武満のこの作品に出会って次の言葉を残したとされている。

この音楽は実にきびしい。全くきびしい。このような、きびしい音楽が、あんな、ひどく小柄な男から、生まれるとは。

また福島和夫の『エカーグラ』に対して「実にいい曲だ」ともコメントしたらしく、これと武満へのコメントが混同されて大賛辞を送ったとされて世に広まったとのこと(福島が全く不憫である)。その後武満は一斉に手のひらを返され、一躍戦後日本を代表する作曲家へと躍り出た。

 

このエピソードは未だにあちこちで語られており、ついこの間にもNHKで放送されたらしい。これのどこが誇らしい話なのだろうか?このエピソードは、日本人は自分たちで価値あるものを判断できず、肩書と実績のある海外のすごい人に評価されると一気に手のひらを返す(現代の各業界でも頻繁に見られる現象であると言えよう)民族ですよと自白しているものであって、語り継ぐ意味がわからない。

ましてや、NHKがこれを自慢気に紹介する意味とは?

現代にも「ストラヴィンスキーに見出されなかった世界線武満徹」がたくさんいて、その人達を殺し続けていますよ、というのを自白しているようなものだ。

齢を重ねる

先日また年齢を重ねた。

 

ところで、25歳になったとき、四半世紀ごとに年齢を数え直すことにした。

これにはいくつかの理由があり、30,40,50となったときにその数の大きさから自分の成長や変化を捉えきれる自信がないことや、誕生から25歳までの心技体が大きく変化する時間軸で捉えたいということなどである。

 

また、これを決めた時、元号が変わったタイミングとも重なっていた。

元号というシステムは、リセットして数え直す特徴が西暦とは大きく違うところだ。

 

伊勢神宮式年遷宮は20年ごとに行われるが、直線的につづく西洋的時間に対してやはり日本には伝統的にこのような循環する時間があるとも思う。

そういった循環する時間を人生にも適応したかった。

 

また、もう一つ違う理由もある。

24歳の時、しばらく会っていなかった旧友(しかし、10代では一番仲の良かった、自分に多大な影響を与えた地元の友達)が亡くなったとの知らせが届いた。

そのとき自分の人生観はいっぺんに変わってしまった。彼が生きた時間を自分はあと何回繰り返すのだろうか?彼は何ができて何ができなかったのか。

彼の分を生きなければならない。そのために、自分はリセットして数え直すことにしたのだった。

 

音と光の色

音も光も、波なので、変換できるのだろうと昔から考えていたが、具体的な方法をよくわかっていなかった。

 

共感覚に関する実験を調べたこの論文を参考に、音を光に、また光を音にする実験をしてみた。

 

波長と周波数の関係は伝播速度に依存するらしい。

光の場合は光速で、音の場合は脳神経の伝達速度で計算して変換するパッチをmaxで作成してみた。

 

それぞれの変換のときに別の音になるのが面白い。

色や音は相対的なもので、動物によって感じ方が変わるとは、こういうことなんだなあ。

 

しかし、やはり共感覚は色と音の波形を参照しているらしいっぽいことがこの論文からわかる。

そして五行思想などの色と音の関係なども、比べてみればある程度関係していそうである。

 

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上善若水(上善如水)

上善若水。水善利万物、而不争。処衆人之所惡。故幾於道。居善地、心善淵、与善仁、言善信、正善治、事善能、動善時。夫唯不争、故無尤。


上善は水の若(ごと)し。水は万物を利して争わず。衆人の悪(いと)う所に処る。故に道に幾(ちか)し。居(きよ)の善は地にあり、心(こころ)の善は淵(ふか)きことにあり、与(とも)の善は仁にあり、言(ことば)の善は信にあり。正(せい)の善は治にあり、事(こと)の善は能にあり、動(どう)の善は時にあり。それ唯(ただ)争わず、故に尤(とが)むること無し。

 

最上の善とは水のようなものである。
水は万物に利を与えてしかも争うことなく、人々が嫌う低い土地に集まっている。
したがってその有様は「道」に近いものだ。


住まいの善は地面の上に住むことにあり、
心の善は奥深いことであり、
友であることの善は思いやりである仁にあり、
言葉の善は誠意あることにあり、
正しいことの善は自分が治まっていることにあり、
事業の善はただ自分のできることを行うことにあり、
行動の善は時を外さないことにある。
水のように争わないのであれば、恨まれることもない。

 

どんな形にも対応して自らを変形させる柔軟性

低いところへ流れていく謙虚さ

長い時間をかけて地形を変えていくエネルギーとその持続の力

水の特徴をうまく捉え、そのように生きることを勧めているのは古代中国の思想家、老子である。

 

水は、陰陽五行説のなかでその一つを占めている。木にエネルギーを与え、火を打ち消す存在である。

五行思想のなかでは「水」は北の方角に位置する。その他に与えられている役割は次のとおりである。

色  黒(玄)
季節 冬
気  陰
日  水曜
星  辰星(水星)
獣  玄武
塵  声
器官 耳
音  羽
調  盤渉調
徳  智
経  易

 

声・耳が当てはめられているのは極めて興味深い。

世阿弥が主張する幽玄の「玄」、能において特別な意味を持つ盤渉調(水にまつわる曲にのみ当てられるが、この五行思想によるものだろう)が集約している。

冷えたる曲、しづかなる絵というのはそれぞれ世阿弥等伯が理想とした曲、絵のことであるが、それらも五行思想でいえばここに位置するのではないか。

 

盤渉の音は通常ロ音(B♮)が当てはめられるが、羽の音(五音音階の第5音)は音階の中で最も高い音であるとともに、春=双調=Gとしたときに

G - D - A - E - B

春-土用-夏-秋-冬

と五度圏を駆け上って最も上に位置する音になる。

 

青春が春と青龍を組み合わせた言葉であるように、冬と玄武を組み合わせた「玄冬」は人生の幼年期と老年期をともに指す言葉となる。枯れてまた新しい生命への息吹となる玄冬は、無駄なプライドや目先の利益に左右されない達観した時代だろう。

上善若水とは、赤ん坊のように生きろと説き続けた老子らしい例えと言える。

人間関係に左右されないこのような生き方を目指すとともに、水の曲を作っていきたいと思う。

 

なお、上善如水のほうが広く知られている語句であるが、これは黒田官兵衛が変えたものらしい。老子の原文は「若水」である。意味は変わらないが、若水(わかみず)とよめば立春の日に主水司から天皇に奉じられた特別な水のこととなる。水によって一年が始まるのは興味深い。