音に聞きつつ…

音楽のことなど。

カワカミヒロミの短編

川上弘美の短編をスペイン人の女の子に教えてもらってからずっと好んで読んでいる。

デビュー作の『神様』を含めた短編集はかなり明るいSFのような佳品で、異世界に飛び込むのではなく異界がやってくるというような趣がある。

このように言っていて気づいたが、少しドラえもんに似ている。

収録作の『離さない』は人魚を浴槽で飼う話だが、これが人間の中毒性のようなもののメタファーとして描かれている。自分にとっては『ポニョ』を彷彿とさせるような軽いホラー感のある作品で、見事である。

しかし自分は男女の「ミチユキ」を描いた『溺レる』がずっと気に入っている。表題作も大好きだし、巻頭の『さやさや』も良い。これはすこし文楽みのある夜の道行である。

川上弘美の作風はカギカッコでくくられないセリフ、またカタカナで書かれる人名など、書き言葉としての技法も面白い。スペイン人の女の子に勧められたが、果たしてどう訳してあるのだろうか。